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かみつけの国 本のテーマ館
            特別寄稿
読書のすすめ その2


 本を読むことに方法はない。あれを読め、これは、とすすめられて「ハイ」と飛びつく人間は多
分いないかもしれぬ。その最たる例が色々の書評というヤツ。好評だと全て順調な売れ行きを
示すとは限らない。大体といっても私の批評対照の多くの「文学」主体だが、評価の定まってい
る古典は(これはどの分野にも存在するが)は別として、読者の声で売れていくのが一番だと
思う。
 そしてどの分野でもそうなんだろうが、真の労作、大作といわれるものは爆発的な売れ行き
を示さないのが通例だ。
 例えていえばミステリー文学の大作に夏樹静子さんの「量刑」がある。
 主人公は「裁判官」。これがまったく「雲の上」で霞を食べて生活しているのではなくて、どこに
もいる隣人と同じ人種だと教えてもらえる。ついでに言えば重厚秀逸な稀にみる名作である。
この本はどんどん売れて当然と思えるが、なかなかそうもいかぬらしい。多分読者の がどこ
かで止まったのかと思う。夏樹先生は実に美しい文章で哀しい人間の寂しさを短いミステリー
に仕立て上げる名手である。読み始めたらもう止められない。
 人間としても律儀であり、礼節、風格、そして作家であり、社長夫人であり、二児の母であり、
と多忙を極めるが、それでも読者些かも疎かにされることのない行き届いた人なのである。天
は二物を与えず、なんてのにも例外があるらしい。
 「天使が消えていく」が世に出たのは1970年。書かれたのは1年前だから今年で丁度33
年。平成元年から、というより翌年から3年間の休筆があるが、発表された長編は37冊。エッ
セイが2冊短編集が68。ただしこの中には中篇とでもよぶのがふさわしい作がかなりある。
 一作として手抜きなし!まさに見事としかいう言葉がない。長編は平均年1冊。どんなに売れ
っ子であってもこれほど自らを持して才能の安売りをされなかったことで、作品の質が高まって
いる。代償はきちんと得られるのだ。

      

 若い頃の私は大河小説が好きだった。短編を読むとなにか損をした気分になったのは、多
分いつまでも読んでいたいという気持ちがあたからだろう。
 読書好きだった。それは結局今でも続いている。
 しかし近頃では読書の傾向も違ってきて、短編を実に沢山読んでいる。人にすすめられる本
もホイホイと飛びつく始末。但しこれは良いブックアドバイザーに恵まれているからである。
 例をあげると、これまた相当な数になるが、一番印象にのこるのは、吉村昭さんの著作(10
0冊を超えた)。藤野豊「いのちの近代史」かもがわ出版、戸坂潤「風俗と思想」平凡社、山口
昌明「挫折の昭和史」岩波書店、「敗者の精神史」岩波書店、ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて
 上・下」岩波書店、野田正彰「戦争と罪責」岩波書店、さらには二十一世紀の資本主義論各
種、津村節子さんの著作(これは49冊)、etc.

 暇と金のことは考えないことにして、ひたすら読む。これも読書のひとつの在り方であろう。
 私の毎日?訪れる書店は「正林堂」。そこにはちゃんとしたアドバイザーがいて、“楽しい読
書を”と言って貰える。真に有難いことだ。
 「本」と「人」との出会いも一期一会なのである。良い本と良い著者と、そして良い書店と、読
書をする人達が、自分一人だと考えることなく、良いサークルを見つけ心の友をしっかり掴むこ
とだ。人生はそのことだけ楽しくなることは確実なのだ。と、これは読書好き老人の独白であ
る。
 本はひとそれぞれに才能が違い進む分野が異なる以上、当然読む本も目的も違う。自分に
合わせて選べば良い。
 技術や職能を啓発するための本は「身につく」かもしれぬが、楽しい読書とはならないだろ
う。若い日の明けても暮れても様々な国のそれぞれの言語と辞典と歴史書に囲まれていた頃
のことを私は今も忘れない。
 なんで比較文学を選んだ、と、しかし悔やんだことはない。今は専ら楽しむために読む。
 夏樹静子先生の短編には随分と泣かされた。文字通り悲しいのである。これがミステリー
か?しかしやっぱり内容はミステリーなのだ。
 「悲しい」といえば「いのちの近代史」かもがわ出版と栗生楽泉園患者自治会編「風雪の紋」、
基本的人権とか民主主義の権利から除外することの出来ない大きな権利を剥奪されてまま
「療養園」という名の患者を撲滅するのが目的の墓地に強制的に収容され、完全隔離された
人達の記録。
 戦後という名も聞くことさえ少なくなった現代。「らい予防法」(1909年施行)。昭和6年(193
1年)、昭和28年(1953年)と「改正」という名の「改悪」のなかで、生きるしかなかったハンセ
ン病患者の実情が祥さに記されている。これは涙なしに読めない本だった。藤野豊という若い
(といっても五十歳は越えたが)近現代史を収めた学究が10余年をかけて書き綴った「いのち
の近代史」。そして草津栗生楽泉園患者自治会の「風雪の紋」。全体像と一療養所という違い
があるだけだが、このような本は多くの人に読んでもらいたいものだ。泣くもよかろう、怒るもよ
かろう。見捨てられた場所で生き、且つ闘ってきた人達が現実に存在するのだということを銘
記したい。
 
 「前記の予防法は1996年―(実に僅か6年前まで在ったのだ)廃止」


 読書のすすめ、書字のススメ、本当にまあ私もひたすら読む。それも結局は色々の感動をそ
れによって得るという大きな楽しみがあるからだろうと思っている。
 皆んな楽しい読書を!
                

                           湯川懇話会会員
                                柏木 武史

         (「湯川懇話会」は世界組織の核廃絶運動の会で、現日本代表は故湯川秀樹 
        氏夫人、スミ女史)
 




メール
hosinoue@hotmail.com



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